いやいや、甘くないでしょう

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 ――チョコレートなんて、大嫌いだ!  私がどうしてこんなにひねくれた性格になったか――そのことを考えさせてもらうとするならば悔しいけれど、隣に住んでいる松原という男のことを考えなくてはならないだろう。  ちなみに。  これから私が話すことは、誠に不本意ながら、ということを念頭に置いていただきたい。  松原は生まれたときから私の隣の家に住んでいる同い年の男である。  そう。  いわゆる――幼馴染み、というやつだ。  ベタにベタベタな――隣の家に住んだ幼馴染という関係性の私と松原だけれど、決して恋愛関係というわけではない。  漫画みたいにわざわざ家に出向いて、朝起こしたりもしない。よくわからない二人だけのあほみたいなあだ名で呼んだりもしない。親公認だったりもしない。  というか、特に仲が良かった、わけでもない。かといって、昔は仲が悪かったわけでもない。  ベタな展開を裏切るようで申し訳ないけれど、関わりがないというやつだ。  一応、小中高(高校はたまたま。もちろん合わせたわけではない)同じで、何度も同じクラスになってはいたけれど。元々、クラス数が少ない学校だったからそんなのたいしたことではない。  あいつはいわゆるスクールカーストてっぺんみたいなやつで、私はそこそこの位置だったし、関わりなんてある方がおかしい。  実際問題、ただ家が隣なだけで、性別も学校内の立ち位置も、キャラも違う人間とは仲良くしないだろう。  できないだろう。  あんなのは漫画の幻想だ。  私の両親は共働きで、かつ、年の離れた姉がいたから、二人ともが仕事の時は姉が面倒を見てくれていたし、ご近所関係は希薄だった。  松原以外の近所の人なんて覚えていない。  そもそも、その松原だって顔なんてとっくのとうに忘れている。  松原という存在がいたことと、そいつにやけにむかついたことくらいしか覚えてはいないのだ。
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