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恐らくは落とし穴系のトラップ。あらかじめ地表に仕掛けておくことでその地点を通った者を空間に閉じ込める効果を持った魔法だろう。全方位を囲う黒い壁は堅く、ちょっとやそっとの攻撃では壊せる気がしない。
「……長引くのは勘弁してくれよ」
ジークハルトがぼそりとそんなことをつぶやくと、直後、空間に声が響いた。
「――ようこそ、ラシュタットの白き英雄」
ジークハルトはその声を耳にしたことはなかったが、しかし、それが誰なのかは考えるまでもないことだ。このタイミングで仕掛けてくる相手は一人しかいない。
「お前が、勇者か――いや、この場合は魔王と呼ぶべきか?」
神に愛され、神を愛した稀代の英雄。魔王を打倒せし勇者にして、魔神に心酔した現魔王――ルカ・アイスラー。
「へえ。元々隠すつもりはなかったとは言え、声だけでバレるなんて。どこかで会ったっけ?」
「いや……声を聞いたのも今が初めてだ。だが、今回俺が呼ばれたのはお前を倒すためだからな――」
そんなにおかしなことじゃない、というジークハルトの台詞を遮って、仲間の一人が声を荒げた。
「ルカ様っ!」
哀しみを伴った声音。敵であるルカを敬称付けで呼んだのは白髪の少女だった。
――確か、クリスタ、だったか。
少女の名はクリスタ・ヘンネフェルト。先代魔王討伐メンバーの一人であり、元勇者の仲間。彼女は悲痛な面持ちで魔王に訴える。
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