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「えっ、誰!?」
カッターを持ったままの少年が、慌てて右腕を後ろに回して、驚いた声を上げる。
「ええと、君こそ何をしているの?
こんな所で」
あやめに突き飛ばされた僕は、それでも少年から主導権を得るように質問をし返す。
「な、なんでもいいだろっ」
少年は、カッターを背中に隠したまま、僕に目を合わせないように顔を背けた。
どうしても、余計に怪しく見せてしまう性分のようだ。
「そのカッターを使うことか?」
僕がそう訊ねると、少年は、今にも泣き出しそうな表情をして肩を震わせた。
「あ、あんたには関係ないよ!」
それは確かにそうなんだけど、ここは押しきってしまおう。
「うん、関係ないよ。というか関係ないから訊いているんだ」
「何を言ってるか分からないよ」
「僕は、君のことを全然知らない。
知らないから訊けるんだ。知っていたら訊きづらいことかもしれないからね」
訳が分からないという表情をした少年の目尻に小さく涙が浮かんでいた。
「こんな路地裏でカッターの刃を見つめて震えているなんて普通じゃない。
差し支えなければ、君が困っていることを教えてくれないか?」
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