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大きな円卓の上に、軽食とは思えないビュッフェ形式のサラダやスープ、サンドイッチなどが大量に並べられた。
「周防、どうしたの?」
軽食の席に案内した執事の周防が、丸眼鏡を外して涙を拭いていた。
「すみません、つい嬉しくなってしまいまして。歳を取ると涙もろくて仕方ありません。
タケルさまが亡くなってから、お嬢様はいつも1人でしたから。
それに姉の真樹菜(まきな)さまは……」
由樹菜が、こうして友人を家に招くのは、珍しいことのようだ。
タケル?
僕は、その名前に訊き覚えがあった。
「由樹菜さまにはお兄様もいらしたのですよ。ところが半年前に……」
「周防、そんな話はいらないわ」
「すみません。ごゆっくりしてくださいね」
そう言って周防は、そそくさと、しかし名残惜しそうにテーブルを離れる。
「周防はね、昔から私の心配ばかりして、中学生になってもまだ子供扱いするのよ」
由樹菜が、ため息をつきながら、だけど決して嫌がってはいない表情で言った。
「まるでお父さんのような人なんだね?」
「両親は年に2、3回しか帰って来ませんから」
僕の問いかけに、由樹菜は、頬を赤らめて答えた。
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