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過去20年間で震度7は、3回予報されたことがあった。
どれもエス氏が住んでいる地域からは遠く離れた場所であったが、そのうち2回は的中していた。
住民の多くはあらかじめ避難していたため人的被害は少なかったが、1回は外していたのだ。
予報が外れた当時のことをエス氏は鮮明に覚えていた。
地震から逃れるために家を売り払い、仕事を辞めて田舎に引っ越した人々が、地震を予報した国を相手に集団訴訟を行ったのである。
第三者はそれを冷めた目で見ていた。
地震予報は外れることもあるという前提で国民は承諾し、毎日予報されているのだ。
しかしエス氏は周囲の見解とは違い、訴訟を起こした家族たちに同情的な目を向けていた。
「僕は女房の実家に身を寄せるつもりです。エスさんはどうします?」同僚は半笑いだったが目は笑っていなかった。
「僕は家族と相談しないと・・・・・・」エス氏は窓の外に広がるビル群を見つめながら言った。
家のローンと妻の顔が脳裏をよぎっていた。
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