晴れのち地震

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 翌朝、エス氏は出社するために家の玄関を出ると、近所のあちらこちらにトラックが停められているのを知った。日本中の引っ越し屋が集まってきているかのような景色になっていた。  家族総出で引っ越しの作業を進めている様子を横目で観察しながら、エス氏は駅に向かった。  空席の目立つ電車から降り、嫌な予感をしながら会社に到着すると、社員の半分近くがいなくなっていた。昨日話していた同僚さえも、もうそこにはいなかった。 「おい、エス君」部長が駆け寄ってきた。 「はい、なんでしょうか?」エス氏は背筋を伸ばした。 「君は会社に残るのかね?」 「・・・・・・まだ考えている最中です」 「さっき社長から通達が来てね、会社に残った者は自動的に出世することになったよ。給料も大幅にアップだって」部長はエス氏の肩に手を置いた。 「本当ですか!」エス氏は満面の笑みを浮かべた。「ところで部長はどうするんですか?」 「僕はもうこんな年齢だ。今更知らない場所に行っても再就職なんてできないし、このまま残るよ。もしも地震が来なかったら取締役に声が掛かる可能性があるみたいだし。その時は君に部長になってもらう」  エス氏は喜びを噛み締めながら部長の手を握りしめた。  しかし喜んでばかりもいられない。  社員が少なくなったため仕事は激務だった。  終電ギリギリまで会社に残りクタクタになって家路につくことになった。 「明日私たちは実家に行きます」妻の最初の言葉がそれだった。 「・・・・・・ああ、分かった」 「あなたは本当に行かないの?」妻が心配そうな顔をするのを久しぶりに見た気がしていた。 「うん・・・・・・もしも地震が来なくても、普通の顔して家に戻ってきてくれよ。元の家庭に戻そう。きっと前よりもよくなってるはずだから」  エス氏がそう言うと、妻は涙を流しながら抱きついてきた。
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