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ごめんなさい。ごめんなさい。 私はそう叫んでるつもりだった。 姉の沙織が怒る理由も分からぬまま、感情のままに振られる拳を受けていた。 背に尻に腹に胸に足に。 受ける暴力は日に日にエスカレートする。 必死に痛みを訴えるのに姉は止めてくれない。むしろ、苛立ちを覚えるらしく余計にひどい暴力を振るう。 「ねぇ、なんで生まれてきたの?! なんで、私の居場所を奪うの?!」 姉の言葉はいつもそうだった。でも、意味が分からなかった。 私はただ、叫び声を上げ階下にいるであろう母に助けを求める。 その内、疲れてきたらしい。姉は肩で域をして、その場にへたり込む。 まるで、憑き物が落ちたかのような顔をして私を見た。 その顔は先程のあの恐ろしい顔ではなく、いつも、私を可愛がってくれる優しい姉の顔だった。 わたしは姉に近寄り、ジーッと見つめる。 そっと、姉は私に手を伸ばし、頬を撫でてくれる。 その手は私を殴っていた手ではない。だから、安心してしまう。 悪魔に乗り移られるまでは姉は優しい姉だ。 「詩織、痛かったでしょう……」 姉はおずおずと私に近づく。彼女の切っていない前髪から母と同じ栗色の瞳が覗いた。 「ごめんなさい。本当に。あなたは何も悪くないのに。私みたいなのが姉で本当にごめんなさい」 それは懺悔。姉と私しか知らない秘密。唯一、知っているのは母が飾っている向日葵の造花だけ。 「うーあー」 大丈夫、そう伝えた。私にとってはそれはコミュニケーションとなる言葉。姉や母にしか伝わらない。 父という人間は私はあまり見たことがない。でも、嫌われている訳では無いというのは分かる。 姉は叩いていた手を床に叩きつける。 拳が赤く滲み、姉は痛みに顔を歪めた。 「こんなお姉ちゃんで本当にごめんね。私がいなくなれば良いのに。この世界から退場できればいいのに」 口から零れでる言葉はまるで呪詛。私に許しを乞うているのか。だとしたら、意味は無い。 だって、私は姉を赦しているから。 「ごめんね。ごめんね」
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