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言葉を続けながら姉は自分を罰することを止めない。 私は姉が私ではなく姉自身を憎んでいることを知っている。 ―――どうして、お姉ちゃんはそんなに自分を責めるの? 不思議だった。殴っている時の姉は罪悪感のひとつも見せていないのに。 落ち着いたその瞬間、今度は自傷を繰り返す。 まるで、私に見せるように。 「さおりー! ちょっと来てーー!」 母親の桜の穏やかな声がする。姉は我に返ると痛む拳を後ろに隠し、私に手を振った。 私はしばらく、虚空を見つめる。何も無いことが好きだから。 何かいるわけでもないけど、でも、宙を見つめてみる。 その内、飽きて、部屋のテレビをつけてみる。 好きなコマーシャルがやっていて、嬉しさに声を上げる。 特別ではないけど、小さな子供と親が手を繋ぎ、一緒に買い物へ行く。 幼い女優はたどたどしさを演出しながら、楽しそうに歌う。その姿が今の私の家族につながり、もっと、声を上げた。 その声は言葉にならない喃語。 他人はそれをうるさいと言うが母親にとっては言葉を話しているように聞こえるらしい。 だからか、母は私の言葉を理解してくれている。 「詩織は沙織と同じでお喋りが好きなのよねぇ。だって、お話してる時はこんなに楽しそうだもの」 母の声は優しくて、抱きしめてもらえると甘いミルクの匂いがする。 だからか、すごく安心する。 母はいつだって、私を抱きしめてくれる。母の手は私の頭を撫でてくれる。 だから、私は母に愛されていることを感じることができるのだ。 『沙織も詩織も優しい子。お母さんにとって二人は自慢の娘よ』 以前、私と姉を呼びにこやかに語る母の姿がふとよぎる。 姉は恥ずかしそうにはにかんでいた。私は、撫でてもらえるのかが心配で母を見ていた覚えがある。 父はその時その場にいたけど、新聞を読んでいて何も言わなかった気がした。 その後、いつものように私を撫でて母は料理の支度をするため立ち上がる。姉は私を抱き締めて、くすぐってくれたり、絵本を読んでくれたりした。 姉からはミルクじゃなくて石鹸の香りがした。 姉が読んでくれる本はいつも面白い。 何度も何度も読んでもらってるはずなのに不思議と飽きない。姉と過ごす時間は幸せだった。悪魔が宿らなければ姉は本当にいい姉なのだ。 そんなことを思っていると睡魔に襲われる。お気に入りの枕は母の枕。両親のベッドに上がり、私は眠りについた。
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