第1章

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世の中にはたくさんの食べ放題の店がある。 変わり種の店もまた。 チョコレートを30分食べ放題で、紅茶が1杯だけついて800円という店がある。 お茶のおかわりは有料だ。 誰も来ないような店だが…女性の変わり者は立ち入ることがあるらしい。 扉を開けるだけで、チョコレートの匂いが立ち込める。 目の前には、巨大なテーブルと皿。 皿の上にはチョコレートの山。 それはトリュフでもあり、板チョコでもあり…一口サイズのチョコでもある。 様々な種類と硬度と食感を持つチョコレートの集まりがテーブルの皿の上で山に積み上げられていた。 客はスコップでそのチョコレートの山を崩しながら、自分の皿に取り分けていく。 スイーツバイキングをしゃれこむわりには、デリカシーのかけらもない。 そんな客は、やって来るなり席についてはひたすら貪るようにチョコレートを口に詰め込む。 チョコレートしか食べられない…だのにチョコレートを必死で食べる。 口の中がねばついても、喉が渇いても、チョコレートの強すぎる香りに鼻が参っても…チョコレートを口に放り込んで溶かして飲み込む。 何がそんなに必死なのか分からない。 むしろ、ひたすら元を取ろうと必死なのだろうか…30分しかないから。 いたたまれないが、こんな店に来た自分も同類だろう。 私もチョコレートをすくいながら、一番元を取る方法を模索している。 たくさんのチョコレートは、おそらくバレンタインの売れ残りを買い上げた残骸か…安物しか見かけない。 ひとつ50円から100円として、紅茶代を含めても30分で板チョコ4枚は食べないと割に合わない。 とても無謀な挑戦だ。
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