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その戦は、苛烈を極めた。
カナは、泣きべそをかきながら一人、崩れかけた壕の中でちぢこまっていた。
どーん。
どーん。
遠くで、近くで、火薬のはぜる音と臭いがする。
「いや……怖い……」
小さく打ち震えながら、カナはそれでも息を殺していた。いつ見つかるかわからない。いつ、……殺されるかわからない。
だから大声を上げたくなるのを必死で堪えて、頭を抱えてうずくまっていた。
と。
ばん!
大きな音がして、壕の扉が開いた。敵兵か、と思って、びくりと肩を上ずらせる。
そこに立っていたのは、大きなかごを背負った、ごましお頭の男性だった。
「ダン……じいちゃん……」
戦の直前にふらりと旅に出たっきり音沙汰のなかった、隣の家の隠居老人――ダンだった。カナは一気に緊張を解きほぐす。ずっと堪えていた涙が堰を切ったかのように溢れ出した。
「ダンじいちゃん――!!」
その声で気がついたのだろう、ダンは驚きの声を上げて壕の中にのそのそと入り込んできた。
「カナ、か?」 ダンはゆっくりと近づくと、確かめるようにそっとカナの、ごわごわになってしまった髪の毛に触れた。
「……パパとママは?」
カナはダンの質問に、小さく首を振った。
突然の攻撃で、全員が逃れる余裕がなかったのだ。父も母も農作業に出たまま、この壕に戻ってくる気配を見せない。……つまりは、そういうことなのだろう。
「そうか……怖かったろうに、よしよし」
カナの頭に触れる手は大きくてあたたかかった。なんだかひどく安心できた。
「しばらく寝るといい。このあたりの攻撃も、もう少しすればきっとおさまるから」
そのやさしい声音にひきつけられるように、カナはぽんぽんと触れられた手のひらのあたたかさに身をそっと委ねるように、気がつけば小さな寝息を立てていた。
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