第1章

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 ひとしきり攻撃の音が止むと、ダンはそっと表の様子を見に出かけた。  きれいに整えられていた花壇が無残な姿を見せている。花壇だけではない、家も、庭も、何もかも。  むっとする臭気に鼻を押さえながら、ダンはきょろきょろと辺りを見回した。  動いているものは見当たらない。破壊の限りを尽くした攻撃の手がやんだのだろう。  ……しかし、いつまた攻撃が来るかわからない。  ダンは眠りこけているカナを背負いかごの中にそっと入れ、簡単な旅支度を廃墟の中から探し出し、ゆっくりと隣国への道を歩き出した。  カナは泣き疲れて眠っている。しばらくは起きないだろう。ダンはふと立ち止まると、小さく神に祈りを捧げた。  これ以上、犠牲がありませんようにと。  犠牲になったものたちが、きちんと天に召されますようにと。  祈りは空を駆け、小さなメロディを紡ぎだす。  賛美の歌をハミングしながら、ダンはまた歩き出した。  五つの橋のむこうにあるという、戦のない国を目指して。 「……ダンじいちゃん?」  揺られる感覚に気がついたのだろう、カナが小さなねぼけ声をかけた。 「どうしたの? どこ行くの?」  ダンは、小さく笑った。精一杯の笑みだった。 「戦のない国に行くんだよ」  ひとつ目の橋とふたつ目の橋はたやすく越えることができた。  カナはかごの中で息を殺さねばならなかったけれども。旅券は、ダンの分しかなかったからだ。  ダンはどこから来たかを告げると、国境の衛兵たちは皆揃って憐れみの視線をかけた。 「ひどい戦だったらしいな。一方的に攻撃されて……」 「女子どもも見境なく殺したって言うじゃないか。まったく、ぞっとするね」  けれどもダンはそういわれるたびに微笑むのだった。 「でも旦那、まだあの国は滅んじゃいない。一人でもあの国の誇りを捨てないものがいる限り、あの国は生きているんです」  そしてわしはその誇りを持っています、と。  きざっぽいせりふだが、しかし真実に思えた。  幼いカナは、特にそう思った。あの美しい国はまだ滅んでいない、滅んだなんて信じない。だからこそ、力になるのだ。  ダンは町で少しずつ笑みを取り戻していくカナをやさしく見守っていた。
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