ミステリ少女の悦楽

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 古い造りの、茶色の木製扉が近づいてきました。  趣はありますが、立て付けが悪くなっているので、開けるのに少し力が必要なのが問題です。  薄暗い廊下を歩いて、わたしはここにやってきました。窓がないので、昼間でも不気味です。じめじめした湿気もあります。まったく酷いものです。けれどこの雰囲気、わたし嫌いじゃありません。  扉を開けました。同時に、よく通る調子いい男性の声が聞こえてくるのでした。 「おお、雪香くんじゃないか。よく来たね」  チェックのベストに黒のスラックス、頭を整髪剤で綺麗に固めて、まるで瓶底のような厚いレンズの眼鏡をかけた男性が、ニヒルな笑顔を作りました。  翠照館(すいしょうかん)大学、推理小説研究部・部長を務めております彼、名前を野辺太郎(のべたろう)部長というのであります。  推理小説研究部とは、読んで字のごとく、推理小説好きのための部です。通称『推研部』。推研部といえば、それなりに伝わります。
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