ミステリ少女の悦楽

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 わたし――八乙女雪香(やおとめきよか)は大学一回生、もちろん推研部員であります。  名前の読みは、ゆきか、ではありません。『きよか』です。雪香と書いて『きよか』と読みます。  部室にはわたしたち二人だけ。他にも数人の部員がいるのですが、熱心に顔を出すのは、わたしたちくらいのものです。  しかしもうすぐ四月。今春には新しい部員が増えるかもしれませんね。楽しみです。どんなミステリ好きがやってくるのでしょう?  あ、そうそう。それはさておきです。大事な用事を忘れておりました。わたしは、野辺太郎部長を見ます。 「のべたろ部長、またわたしの作ったミステリを解いてもらってもいいでしょうか?」  わたしは凛としてお願いをいたしました。ミステリは戦いです。欺くか見破るか――血肉の沸き立つ戦いなのであります。例えばミステリにも、オリンピックが開催されても良いのではないかと、わたしは常々思うのです。 「三月ですし、この間部長から聞いたお話を参考にして、桜を登場させたミステリです」  すると部長、首をかしげます。 「この間? はてさて、僕は何か話しただろうかね?」  眼鏡をクイと上げました。
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