ミステリ少女の悦楽

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「桜の花びらの落ちる速度のお話ですよ。たしか昨年大ヒットした、アニメ映画監督作品のタイトル――でしたでしょうか?」 「ああ」  合点した仕草を、部長はするのでありました。 「あれはだ、単に花びら落ちる速さだけではなくてだね、その背後にある、人生の時間の流れによってもたらされる――」 「そんなことより、のべたろ部長。推理してください。犯人、当ててください」 「――ああ辛辣ぅ。実に辛辣だ雪香くん。君はまるで容赦というものがないね」  部長は大袈裟に大きく手を広げます。まるでアメリカ映画の俳優のようです。 「推理もいいけど、たまには僕の求愛に応えてほしいものだよ――なぁんてね」  にかっ、と笑う部長。 「きゅうあい、ですか? あのー、それはどのようなトリックなのでしょう?」  わたしはいたって大真面目に訊ねました。  けれど部長は、くるりとひっくり返ってしまいました。どしんと床が鳴って、書籍の山が崩れました。もくもくと埃が舞います。  やがて起き上がって、頭を抱えてしまいました。その頭に文庫本が乗っております。 「ああ、そうだね。この話題は君にはきっと、どんなミステリよりも難題だろうね……まあいいさ、さっそく君のミステリに耳を傾けるとしよう」  部長はやれやれと、頭を振るのです。  彼がいったい何を嘆いているのか、わたしにはさっぱりとわからないのでありました。
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