58人が本棚に入れています
本棚に追加
父の死後、姉は大学進学を諦めて就職し、会社の寮に入ることにした。
たぶん、私を高校に行かせるため。
保険金は家のローンで消えたから、母一人の稼ぎでは生活費だけでいっぱいいっぱいだったのだろう。
姉が出て行った日のことは、よく覚えている。
家の前の満開の桜が、強い風に舞っていた。
何か手伝おうと思っていたのに、荷造りはすっかり終わっていて、私の出番なんてなかった。
「しいちゃん、お母さんのこと頼むね」
しっかり者の長女が母親を託したのは、甘えん坊の次女だった。
「うん。わかってる」
私が母を支えるんだ。姉に誓うように、私は大きく頷いた。
ざっと吹いた風が、頑張れと励ますかのように私の背中を押した。
最初のコメントを投稿しよう!