桜舞うとき

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父の死後、姉は大学進学を諦めて就職し、会社の寮に入ることにした。 たぶん、私を高校に行かせるため。 保険金は家のローンで消えたから、母一人の稼ぎでは生活費だけでいっぱいいっぱいだったのだろう。 姉が出て行った日のことは、よく覚えている。 家の前の満開の桜が、強い風に舞っていた。 何か手伝おうと思っていたのに、荷造りはすっかり終わっていて、私の出番なんてなかった。 「しいちゃん、お母さんのこと頼むね」 しっかり者の長女が母親を託したのは、甘えん坊の次女だった。 「うん。わかってる」 私が母を支えるんだ。姉に誓うように、私は大きく頷いた。 ざっと吹いた風が、頑張れと励ますかのように私の背中を押した。
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