桜舞うとき

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父が亡くなって一番ショックを受けていたのは、娘である私たちではなく母だった。突然、愛する夫に先立たれて、残された子どもたちを養っていかなくてはならなくなって。 法事でバタバタしたり、慣れない仕事に疲れ切っていて、子供心にも母を見ているのが辛かった。 どうして死んじゃったの? と仏壇の前で父を睨んだこともある。 姉が出て行った日から、何度も何度もあの言葉を思い出した。 ――お母さんのこと頼むね。 姉は私のために家を出て行ったんだから、私はずっとそばにいて母を支えよう。 そう思ってきたのに、私は明日家を出て行く。 それは二人に対する裏切りのようにも思えた。 ごめんね。 心の中で何度も謝る。口に出すと姉に怒られそうだから。 四つ違いの姉は、母よりも怖い二人目の母のようだった。真面目で責任感が強くて。姉妹なのに容姿も性格も似ていないとよく言われた。 きっと姉が私だったら、母を置き去りにはしないだろう。 もちろん、私にだってそうすることは出来た。しようと思えば。 出来たけど、出来なかった。 どうしても出来なかった。
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