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「先程の映像はこの春に私が初めてエベレストに登頂した際のものです。
いかがでしたか」
ここでロックスターのようにマイクを観客に向ける。
反対の手を耳に当てて返事を待っているポーズ付きだ。
これには日本の観客も反応しない訳にはいかない。
最高、
すごかったなどといった日本語の反応に混じってグレイト、
マーベラスという拙い英語も飛び交う。
博士は片方の眉を持ち上げながら満足気に唇の端を持ち上げ、
ホラねとでも言っているかのように両手を広げ肩をすくめた。
「世界の最高峰でのチャレンジは素晴らしいものでした。
もちろん、
山頂へのアタックに欠かせない防寒着をどうクリアするかは技術的に大きな課題でした。
四重のフラップと寒気を防ぎながら一方通行での排出を実現したウェアは試作の段階での想像以上に抜群の使い勝手でしたが、
薄い大気と低い気温、
不安定な足元、
そして強風」
過酷な状況を思い出しているのだろうか、
博士は観客席の上に吊るされたライトを見つめるかのように顔を上げた。
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