チョコレート電話

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A社の開発したチョコレートには、ある画期的な機能が備わっていた。それは、通話機能。  チョコレートを口に含むだけで、通話できるとあって、そのお手ごろさから「通話できるチョコレート」は大ヒットした。  しかし、このチョコレートには弱点があったのだった。  その日私は、意中の彼と初めて出かける約束をしていたのだが、うっかり寝坊してしまった。大急ぎで家を出る。 「やだ、遅刻しちゃう! こんな日に限って、目覚ましの電池が切れるなんて!」    そこで、私はあることに気が付いた。 「嘘! スマホを家に忘れてきちゃった! これじゃ、彼と連絡が取れない!」  なにせ今日が初デート。少し浮かれすぎていたのかもしれない。  だが慌てることはない。私にはあれがある。最近巷で話題になっている「通話できるチョコレート」だ。私はチョコを一欠け口の中に入れた。 「もしもし? あのね、私――」  しかし、今日は真夏ということもあってか、私は本題に入る前に、チョコレートは口の中で溶けてしまった。 「まあいいわ。まだチョコレートは残ってるんだから」  私はもう一欠けチョコレートを口に入れた。 「もしもし? あのね、実は――」  でもどうしたことか、何回やっても本題に入る前に、チョコレートは口の中で溶けてしまう。  そう、これこそが、このチョコレートの弱点なのだ!  特に真夏は、冬なら一分はもつこのチョコレートも、ものの数秒で溶けてしまう。  結局私は、30分以上遅れて、待ち合わせ場所についた。  そこには誰もいない。彼の姿は、影も形も無かった。  私は泣きそうになった。もう嫌だ。待ち合わせにも遅れるし、連絡もよこさないし。きっと彼は、あきれて帰ったに違いない! 私の事なんか嫌いになっただろう!  そう思って鞄の中を漁っていると、カバンの底に、もう一欠けだけ、チョコが転がっていた。最後の一欠けだ。  これを逃すともう連絡は取れないかもしれない。意を決して、そのチョコレートを口の中に入れた。
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