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「今日は忙しかったな」
時計の針は、二十二時に迫ろうとしていた。
今日は珍しくバイトが忙しく、時間が経つのがいつもより早く感じられた。
店長も心なしか機嫌が良い。
「久賀くん、今日のまかないは特別メニューだぞ。ありがとうな」
「たまには、こういう忙しい日もあるんすね」
「たまにでなく、毎日こうあってほしいものだがな」
それは勘弁してほしいと、口から出かかった言葉を久賀は飲み込んだ。
あまりに忙しいと、疲れて、翌日の学校をさぼりたくなってしまうからだ。
真面目な生徒であるつもりなどはさらさらないが、自分から学校をとってしまうと本当に何も残らなくなってしまう。
それがなんとなく、怖かった。
「じゃあ、おつかれっした」
気怠いが、久賀は原付バイクに跨った。
あとは帰ってシャワーを浴びて、母の夕飯を用意しておくだけだ。
そして小さくて狭い自分の部屋に入って、ベッドに横たわって眠くなるのを待つ。気付けば朝を迎えるという、繰り返しの日々。
特別変わったことなどとくになく、ただ淡々と季節が移ろう単調な日々。
そういえばあの漫画の展開はどうなったんだろう。何ヶ月か前から読まなくなっていた漫画の続きなどを気にしてみたりもした。
信号待ち。
風が優しく頬を撫でていった。
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