ゲームの始まり Ⅰ

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ゲームの始まり Ⅰ

『幸せな人間しか、人には優しくなれないものなのよ』  それは高校二年の冬のことだった。  放課後の帰り道、カオリは、すれ違った女の子が転んで泣き声を上げた時、振り向きもせずそう言った。  それと同時に巻き上がるカオリの長い髪。首筋の傷跡。  いつもならいちばん初めにそんな子に駆け寄るカオリが、いつものように笑いながらそんな言葉を口にしたことと、それ以上にその傷痕に驚いて、私は何も言えなかった。 『ねえ、キカ、そう思わない?』  ただ、きちんと高校の制服を着こなしたカオリが妙に恐ろしくて、私はその問いにも黙ったままだった。  カオリが一家心中の果てに一人残されたこと、そのあと裕福な家の養女になったこと、それまではひどく貧しく育ってきたこと、私はそのことを、ずっと後になって知った。  そしてそれが真実だということも、こうやって追われるようになって、知った。
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