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ゲームの始まり Ⅱ
そして、そんなことは忘れかけた26歳の秋。
私は走っていた。
「早くしな!キカ!」
前を行く『なんでも屋』のフォンファが私を急かす。
新宿の裏通りでいつも売れそうにないピアスの露店を開いているフォンファ。
私のマンションへの近道だから使っていた裏道だったけど、いつ通りかかっても彼女の前には客の一人の姿もないことが多かった。
小太りで、いまだに少し中国訛りのある日本語で商品を売り込む彼女の姿を、いまさら故郷にも帰れなくなったオーバーステイの娼婦の熟れの果てなんだろうと、私は半分憐れんだ目で見ていた。
そのときの私は自分の若さを過信していたし、私に何が契約されていたかも、まだ、何も知らなかった。
だからこそ、自分の運命を知った時にフォンファに縋ったのだ。 『フォンファは本当は『なんでも屋』だ』
という、下らない噂に。
どうせ助からないのなら、誰も信じてくれないのなら、私も信じられないものに賭けてみようと。
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