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ゲームの始まり Ⅴ
カオリがまた私の前に現れたのは。
「キカ。キカよね?」
マンションの前で私に呼びかけたカオリは、びっくりするほど老け込んでいた。
老婆のような格好をし、長い髪はざくざくと無造作に切られ、もう首の傷を隠す気もないようだった。
「わたし、わたしカオリよ覚えてる?ほら高校のとき一緒で映画も見に行ったよねあの時買った服まだ持ってるもう似合わないから着られないけれどでも持ってる思い出だけは誰にも壊せないからわたしあのとき幸せだったのよ」
まるで呪文のように一息に言うカオリが恐ろしく、私は後ずさる。
「幸せだったころすべてにさよならを言わなくちゃいけないの今のわたしを見せなきゃいけないのそれが条件だったんだって全部取られちゃったぜんぶぜんぶゼンブ」
「よくわからないけど……何かされてるなら警察に行こう?」
本当は、警察より病院が必要だと思ったけれど。
ケケケ!と怪鳥のようにカオリが笑った。よく見ると浅い傷跡だらけのその顔は歪んで、唇の端には唾液の白い泡がついている。
「警察!警察警察警察!あれも偽物!」
カオリが凄まじい勢いで絶叫した。
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