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第二章 ヒロくんの場合
「人生を売り買いする奴らがいるのを知ってるか?」
俺__金井___は空中に向かって話す。
「違う。臓器や女の体の話じゃない。背乗りや戸籍の話でもない。そいつの人生を文字通り年単位で『買う』んだ。その間、そいつはずっと監視され、記録される。たまにいるだろ、『俺は見張られてる!』なんて暴れてる奴。だいたいはただのアレだが、たまに本物がいる。まあ目的は平和な奴が多いさ。好きな男の人生を一年でいいから欲しい、24時間×360日分の男を見て一生を過ごすんだとよ」
ふっと俺は煙草の煙を吐き出した。
「まあそんなこと頼んでくる奴らの根っこがイカレてるのは確かだがな。一年分の男の人生の代金だけで、たいていの人間なら尻尾を振るような金がかかる。俺からすりゃあその金をもらってその女も貰った方がいいね。婆さんだろうが、不細工だろうが。でもそいつらはそうじゃないんだ。その男と一緒にいる一生が欲しいわけじゃないんだよ。そいつが何をしてるか、ただそいつだけを見てたいんだ」
わけがわからない、気持ちが悪い、と俺は首を振った。
「もっと上になると、人生の最後まで『買う』奴らがいる。あ?寿命まで待つわけないだろ。そんなことしたらどんな大富豪でも破産だ。そう。殺すんだよ。期限を決めて、それまではそいつの人生がうまく行くようにお膳立てしてやる。それで、そいつらが幸せでたまらない時に『おまえの人生は売られたんだ』と教えて殺す。殺し方も値段次第でそれなりに選べる。これはたいてい女だな。親に売られたり、昔振った男に恨まれてたり。こっちはただ人生を買うのとは桁違いの金がかかる。でも、そういうのが楽しくてたまらない金が有り余った奴らがいるんだ」
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