一話 一人目の失踪者

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【平成29年 9月1日 嬉々南村】  転校生がやってきた。 「どこからって、東京よ東京。  もう職員室前大騒ぎだったわよ。日誌取りに行っただけで朝から一苦労。  だって東京だものね。こんな田舎じゃしょうがないわよね」  森と田んぼと防空壕しか取り柄のないようなこの村に、  数年後にオリンピックを控えてなお電車の一本も通らないこの村に、  Googleマップに存在すら表示されないこの村に、  都会の風が舞い込んでくるらしい。 「しかもまぁ結構なイケメンだとかで。女子がもうすっごいの。  あなた気を付けなさいね?  嫉妬で逆恨みされて気づいたら惨殺死体なんて笑えない冗談よ」 「――はえ? わたし?  ……なんでわたしが恨まれるの?」 「あなた学級長じゃない。レイラ」  きっと世話役よ、そうやってぽやんとしてる場合じゃないのよ、と。  噂好きな少女は、品の良さそうな顔をしかめ、  幼馴染――神居レイラの額を小突いてみせた。  
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