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神居 レイラ。
嬉々南高校一年一組、出席番号4番、学級長。
一組、といえどド田舎の自然派高校では、そもそも学年毎にクラスは一つしかない。つまり一学年の代表として、学級長なんかをやっている。
腰まで垂れる黒髪をお気に入りのゴムで束ね、スカート丈は膝上5センチ、姿勢の悪さが気になる質で、いつもピンと背筋を張っている。人好きのする外見と、おまけに座学の成績が一番とくれば、教師が級長を任せたがるのも無理はない。そして、頼まれると嫌と言えない性格なのであった。
しかし、そんな優等生にも弱点はある。
「わたし、そんなにぼーっとしてるかなぁ……」
「なにを今更」
突発的ぼんやり症候群。
ところ構わず、彼女は大抵ぼんやりしている。
他人の話を聞き損ねたり、集団行動に出遅れるなどは序の口。ふと椅子に腰かけ、一息つこうと思って、気づけば数時間が経過していたケースもざらにある。
「あなたね、忘れたの? 中学の頃なんてそれで教師に怒られて、話聞かないなら外立ってろなんて言われて、立たされた廊下でまた放心状態で放課後になっても戻ってこなくて」
友人の呆れたような視線を受けながら、レイラは首を捻った。
そんなこともあったかもしれない。
ぼんやりしている最中のことは、あまり覚えていないのだ。しかし、おかげで迷惑をかけっ放しの幼馴染――冬堂セツが言うのであれば間違いはないのだろう。
レイラは顔の前に片手を立て、謝罪の意を表しながら、
「そうだっけ。いやーいつもご面倒かけます」
「もう慣れたわよ。こちとら小学校から『レイラちゃんのほごしゃ』なんて言われてるのよ。数時間廊下で意識飛ばしてた天然記念物を教室に引っ張り戻してノート書き写させるくらい、わけなかったわ」
「……ご、ごめんどうかけます……」
立てた片手が顔を覆った。消したい過去だった。
追い打ちをかけるように、セツのシャーペンがぺしぺしとレイラの額をつつく。
「――にしても、転校生、ねえ」
落ち込む幼馴染から逸らされた視線が、黒板の上の時計を捉える。
HR1分前。
「……気を付けなさいよ」
ぽつりと漏らされた言葉に、レイラが不思議そうに顔を上げた。
見慣れきったクラスメイト。
知り尽くした学校。
馴染みきった、この村。
――そこに吹き込む、外の風。
時計の長針が八時半を告げ、HRの鐘が鳴る。
転校生が、やってきた。
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