怪談DJ『駐車場の子ども』

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先週の土曜日の話。 会社の昼休み。 近くのコンビニへ昼食を買いに出かけた。 お弁当とお茶を購入して、社へ戻る前に一服しようと、コンビニ脇に設置してある喫煙所へ。 「あ~今日は風もなくて、過ごしやすいなぁ」 などと考えながら、煙草に火を点けて深く吸い込む。 早めに仕事が終るようなら、帰りにどこかに寄って行こうか。 寒い日が続いていたので、今日のようにポカポカと温かい日はありがたい。 背後に車が入ってくる音がしたので、そちらへチラリと視線をやった。 白いミニバンが駐車スペースに停まったところだった。 「いいなぁ。こんな天気の日はどっかに出かけたいよなぁ」 家族でお出かけだろうか、両親らしき男女が車から降りてコンビニの店内へ入っていく。 私の背後では、車内に残っているであろう子ども達の笑い声が聞こえていた。 視界の端に、運転席と後部座席の窓に張り付き、両親が買い物から戻ってくるのをニコニコと楽しそうに笑って待っている、幼い姉妹の姿が見えた。 さて、そろそろ社に戻ろう。 灰皿に煙草を投入し、時間を確認しようとポケットからスマホを取り出した際、袖口に引っかかったライターが地面に落ちた。 慌ててしゃがみこみ、ライターを拾い上げた時、私はある事に気づいた。 私のすぐ脇に停まっている白いミニバン。 先程まで、女の子2人が楽しそうに外を見ていたその車の中には……誰もいなかったのだ。 座席の下に隠れているのだろうか? ついさっきまでキャッキャとはしゃぐ声が聞こえていたのに。 運転席と後部座席の窓ガラスには、光の加減でうっすらと手形が付いているのが見える。 確かにいたのに。 確認してみようか? でも赤の他人の車の中を覗き込むような真似は出来ない。 頭の中で「?」がグルグルと回っている。 その時、店内から買い物を終えた男女が戻ってくる。 じっと車を見つめている私を、一瞬だけ不審そうに見やって、後部座席のドアを開けると手にしていたビニール袋を座席の上に置いた。 そして車に乗り込むと、そのまま駐車場を出て行った。 ミニバンが建物の陰に隠れて見えなくなるまで、私はしばし呆然と立ち尽くしていた。 「……戻らなくちゃ」 戻って、お昼食べて、午後の仕事の段取りを考えて──。 ガサゴソと音を立てるビニール袋の中に入っているお弁当は、きっとすっかり冷めてしまっている事だろう。
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