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眠ったのか、うとうとしたのか、雨音が絶え間なく聞こえていた。点けっ放しのスタンドの灯りが、外の明るさにゆっくり馴染んでいく。
昨日半日一緒に居たせいか「かのん」と呼ぶ、晴陽の声が耳元で聞こえる気がする。それから、付き合わされたフットサル。脛の辺りが筋肉痛だ。
雨はまだ降り続いていた。
階下の音が、雨音に混じって聞こえる。
6時20分。
着替えをして下りた。
「おはよう」
「おはよう。珍しく早いな」
「ん」
父は、まもなく朝食を終えようとしていた。僕は、テレビのボリュームを下げてから、顔を洗いに行った。
祖父の耳が遠くなったせいか、音量がやたらと大きい。祖母と父の朝食。祖父はまだ寝ている。この12年、僕が大学進学で此処を離れても、変わらない食卓の風景。
「花音はまだいいの?」
「ん、後でじいちゃんと食べる」
「おまえ、いつ迄居るんだ?」
「ん、月末か、頭辺り」
沢庵を摘んで、お茶をひと口飲む。濃い渋のお茶に目が覚めた。
「今度の土曜日仕事?テニス行く?」
「あぁ、そうだな。コート取っとけよ」
「ん」
父との唯一の共通事項だ。金曜日の夜に帰って4日目。毎日出歩いていた。日曜日は一寸行きたそうに見えた。。
玄関までついて行く僕を怪訝そうに見る。
「なんだ、出掛けるのか?」
「ん、一寸散歩」
「そんな、シャツ一枚で、寒いぞ。なんか羽織ってけ」
「ん、ね、父さん、再婚しないの?」
「は?なんだ、藪から棒に」
「離婚したこと、後悔してる?」
「おまえ、そんな話出掛けにするなよ。彼女でも出来たのか?」
「そんなんじゃないけど」
「おまえには、可哀想なことをしたと思ってるよ。今度紹介しろよ」
「残念です」
「行って来るぞ」
「あ、ん、行ってらっしゃい」
薄い書類鞄を頭に乗せて、小走りにガレージへ行く父の後ろ姿を見送りながら、確かに出勤間際に尋ねるようなことではなかったな。と思った。今迄聞いたこともなかったのに、ふと思いついたように口にした自分が不思議だった。
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