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和真は碧に向き直ると、事務所の方を指した。
店頭での業務も一通り教わったし、何より客として足繁く通った店だから商品もだいたい把握している。
大丈夫かと問うように村瀬に視線を向けると、碧が口を開くより早く村瀬が言葉を発した。
「いいわよ、行ってきて。その仕事、私やっておくから」
「また後で来ます」
「忙しくなったら呼ぶから、そのまま奥の仕事に戻って大丈夫よ」
碧はペコリと小さくお辞儀して「分かりました」と答えた。
「事務所に行くから」
和真が短く告げると、碧は先に背を向けた和真の横に足早に並んだ。
「狭いだろう、後ろ歩け」
辛うじて二人がすれ違えるほどの広さしかない間口から、奥の作業場に抜けるまでに通路は並んで歩くのは窮屈だ。
「和真さんの近くがいいので」
碧は和真にだけ聞こえる音量で、囁くように言った。
碧の方が背が高いので、こんなふうに並ぶと、丁度和真の耳が口許に近づく。
「…っ…お前な」
息がかかってくすぐったかったのか、和真はパッと耳を押さえて、碧を睨んだ。
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