3185人が本棚に入れています
本棚に追加
/513ページ
小学6年の終わり頃。
交通事故で、母が病院に運ばれた。
碧は公演で各地を巡業中の父、雅人に連絡を取った。
「今すぐは戻れない」
雅人はそう言って、電話を切った。
病室に戻ると、包帯で頭部を包まれた母が痛々しい姿で横たわっていた。
慧も、部活の遠征に出ていてこの時は碧一人だった。
目を開かない母が怖かった。
手に触れようとして、でも怖くて。
何も出来ないちっぽけな自分がすごくすごく嫌だった。
気づけば病室を飛び出していて。
走る碧を咎める声も聞いた気がしたが、右から左へと抜けていった。
夢中で走って、碧は病院の外に出た。
駐車場入り口の脇に大きな木があった。
碧はそこから母の病室の辺りを、見つめていた。
本当なら。
その手を握ったり、目が覚めるまでそこに居ればそれだけで良かったんだろうけど。
このまま死んでしまったら…そう思ったら、息ができなくなりそうなほど、身がすくんだ。
最初のコメントを投稿しよう!