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怖いと思った。
看護師さんは子どもの碧には何も教えてくれなかった。
「…嫌だ」
不安に押し潰されそうで、ぎゅっと目を瞑った。
涙が出た。
「嫌だよ」
一度堰を切って溢れた涙は、とめどなく流れてきて碧は腕で目を覆った。
拭っても拭っても涙は止まることはなくて。
嗚咽が口をついて出ると、もうどうにも止まらなかった。
「…どうして泣いてる?」
不意に。
困惑したような声と暖かい手のひらが頭の上に降ってきた。
顔を上げると、ケーキのような箱を持った男が立っていた。
知っている人間ではない。
驚いたが、不思議と怖いとは思わなかった。
ふわりと髪を撫でた手が優しかったからかもしれない。
「…お母さんが……事故で……」
泣いていたせいで、声がうまくでない。
ここが病院の前だということもあってか、途切れ途切れの声はそれでも伝わったようで、男は痛そうに顔を歪めて「そうか」とだけ言った。
ポンポンと二度ほど頭を撫でられると、それまで抑えていたものが一気に吹き出した。
男の腹の辺りに顔を埋めて、碧は怖い、どうしようと何度も繰り返し、ひたすら泣いた。
見ず知らずの人なのに、しがみつく碧の背中を碧が泣き止むまでひたすら撫でてくれた。
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