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好きだとか、そんな感情ではないとずっと思っていた。
けれど、実際に触れられる距離に行けたらそうではない自分に、気がついてしまった。
聡一郎に、そうじゃないと言いながら。
本当は気がついていた。
夢の中で、唇が触れあいそうになった。目が覚めて、自己嫌悪しながらもっと続きが見たかったと思っている自分がいた。
『好き』なんだ。
この気持ちの答えは、それしか見当たらなかった。
腕を握ったまま、どれくらい経っただろう。
振り払うこともせず、何かを言うわけでもなく。
さわさわと、満開間近の桜が揺れる音さえ聞こえてくる。
「…え…と…か、里見さん…?」
さっきは勢いで和真さんと呼んでしまったが、里見さんと言い直す。
沈黙に耐えられず、掴む力を緩めるとするりと和真は離れて行った。
「とりあえず、戻るぞ。休憩は終わりだ」
何事もなかったように立ち上がると、スタスタと歩いていってしまう。
「あ、待ってくださいよ」
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