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「…もっと…」
笑えばいいのにと言いかけて、薫は口を閉ざした。
「なんだ…?」
「何でもないよ。里見が出てくれるなら電話切らなくても良かったな」
言ってしまったら、たまに無意識で見せるその表情すら見られらなくなる気がして薫は緩く首を横に振った。
「お前に電話押し付けたのは俺なんだからそれくらいはする」
そういうところで妙な律儀さを発揮する和真だったが、普段は滅多なことでは店頭に出ない。
「いつもそうだと助かるのに」
「悪かったな」
「名前…聞きそびれちゃった」
さり気なく文句を混ぜて独り言のように続けると、和真はさらに眉を寄せた。
「名前…?」
不機嫌になったわけではないことを知っているので薫は和真の深くなった眉間のシワを無視して話を進める。
「卒業生、一人雇って欲しいんだって」
薫は事務所兼休憩室の方に戻りつつ、桜井からの電話の内容を伝えた。
「あの人もいい加減懲りないな」
和真は少しばかりうんざりとした様子でため息をついた。
「懲りないって…あんたね。それだけここを気にかけてくれてるってことでしょ」
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