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「…離せと言ってる」
拒絶に聞こえない、確かにそうなのだろう。この密着した状態では鼓動が伝わってしまいそうで嫌だと思うのに、一歩も動けない。
その時、階下から響いたかたんという音にはっとして、和真はようやく二階堂の胸を押しやることが出来た。
「…残念。じゃあお言葉に甘えて風呂とベッドお借りしますね」
「…ああ。俺は走ってくる」
二階堂は眉を下げて苦笑いすると、和真からぱっと離れた。
離れたことにほっとする反面、妙に体がひやりとするような感覚に襲われて、和真は緩く首を振った。
梅園が辞めると聞いたときはよくあることだと割り切っていたせいか、自分でも驚く程に冷静でいられたのに、今の自分はなんだ。
昨日から、ずっとこの問答の繰り返しだ。
答えなんて、昨日の今日で見つかるはずもなく、和真はぐっと唇を噛んだ。
「いってらっしゃい」
和真が困惑していることに気がつかない二階堂は、呑気に言った。
「…行ってくる」
考えるのを辞めたい一心で、和真はその場から逃げるように走り出した。
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