紹介

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「今日はストロベリームースを作るよ」 桜井は上機嫌で、実習室のホワイトボードの前に立っていた。ペンを手にとって順序を説明しながら、要点のみをボードに更々と書き込んでいく。 「先生、なにかいいことあったの?」 「ん?そうだなぁ。いいこと、というよりは楽しいことかな?」 一人の女子生徒が今にも鼻歌をハミングしだしそうな雰囲気の桜井に尋ねると、桜井は笑って、授業が始まる前のやり取りを思い出していた。 「明日は雪でも降るんじゃない?」 受話器の向こう側で、心底嫌そうに眉間にシワを寄せているだろう里見が思い浮かんできて、桜井はくつくつと笑った。 『…だから貴方に頼むのは嫌だったんですよ』 彼の方から電話を寄越すなんて、今までにあっただろうか。…いやない。 珍事過ぎて、もうすぐ夏が来るというのに、本気で雪が降るのではないかと思ったほどだ。
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