想うということ

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抑揚のない声で和真に尋ねたのは塚原だ。 「フルーツをカットして。イチゴはこう、オレンジはこうだ」 和真は手本を見せながら、手際よくカットしていく。碧も思わず見入ってしまうほど綺麗だ。これを商売にしているのだから、仕上がりが綺麗なのは当然なのだが、和真の手捌きは早い上に正確だった。 「分かりました」 ナイフを受け取った塚原は、イチゴを手に取って慎重に刃先を入れた。 「その角度だと組織が潰れる。もう少し立てて」 「…分かりました」 塚原は些か不満そうに返事をして、渋々と言った様子で和真に指導された通りに刃先を傾けた。 女生徒2人はよく喋るし、表情も明るい。分からなければ聞いてくれるので指導もしやすく、職場に馴染むのも早かったが、塚原だけは一筋縄ではいかないようだった。 和真もどちらかといえば指導者向きではないので、言い方もキツイ。お互いに若干だがイライラしてきているのがその場にいるだけで伝わるようになってきた。
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