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まるで最初から碧の答えが分かっていたかのような返答も、だ。
碧はとりあえず頷くと、余計なことを言ってしまった居心地の悪さに父親から目を逸した。
自分の意見を通すのに、彼の罪悪感を煽るように家族のことを引き合いに出すべきではなかった。
「あの、さ」
碧が取り繕うように口を開いたのと同時に、稽古場に戻ってきたさっきの四人のうちの一人、聡一郎が碧と雅人の間に漂う微妙な空気を察知してズンズンこちらに近づいてきた。
「…碧さん、また師範に何か言いました?」
「や…聡さん。俺…」
聡一郎の目は、笑ってるのに笑っていなかった。
碧は自分より2つ年上のこの男に、父親以上に頭が上がらない。
背が碧より高いわけでも、厳つい顔をしているわけでもないのに、柔らかい物腰が逆に怖いと言うか…。
「はい、ハッキリ言う」
「はい!俺、パティシエになるから親父の跡は継がないって言いましたっ」
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