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あれは5歳くらいの頃だったか。その頃の和真は、母親の作るマフィンがとても好きだった。
それは家庭でもすぐに作れる簡素なものだったが、マフィンがおやつの日は、ウキウキして気分が良かった。
『甘いものは人を幸せにするのよ。嫌な気持ちも全部何処かへ行ってしまうでしょう?』
一口頬張ると、なんとも言えない甘さが口いっぱいに広がって、小さな和真は何度も頷いた。
『また明日も作ってね』
和真がそう言うと、母親は何故だか寂しそうに笑って首を横に振った。
『毎日食べたら幸せじゃなくなっちゃうのよ』
その時は、それで分かったような顔をして頷いて。
まさかそれが最後になるなんて夢にも思わずに。
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