陽気なオトコ

9/12
3188人が本棚に入れています
本棚に追加
/513ページ
最初の勢いはどこへ行ったのか、碧は弱く呟いた。 自分の我をここまで強く出したのは実は初めての事だった。 雅人はそんな碧を見て、ようやく口を開いた。 師範ではなく、父として。 「いいも悪いもない。…祭なんだから、ただ楽しめばいい」 年に一度のこの地区の夏祭りでは、和太鼓の演舞が毎年プログラムに入っている。 碧は子どもの時から毎年この舞台に立つのを楽しみにしていた。 親父の期待に添えない以上、本当はもう来ないほうがいいのではないかと思っていた。 それだけに雅人の言葉は嬉しかった。 「ありがとな…親父…俺、絶対いい菓子職人になるから」 ぐっと拳を握って、こみ上げてきた感動を押し殺す。 そこへ、間で親子のやり取りを聞いていた聡一郎が口を挟んだ。 「格好良く締めたところ、申し訳ないですが、碧さん、肝心の就職先は決まってるんですか?」 「あ、それは大丈夫。先生に頼み込んだからバッチリ」
/513ページ

最初のコメントを投稿しよう!