3188人が本棚に入れています
本棚に追加
/513ページ
最初の勢いはどこへ行ったのか、碧は弱く呟いた。
自分の我をここまで強く出したのは実は初めての事だった。
雅人はそんな碧を見て、ようやく口を開いた。
師範ではなく、父として。
「いいも悪いもない。…祭なんだから、ただ楽しめばいい」
年に一度のこの地区の夏祭りでは、和太鼓の演舞が毎年プログラムに入っている。
碧は子どもの時から毎年この舞台に立つのを楽しみにしていた。
親父の期待に添えない以上、本当はもう来ないほうがいいのではないかと思っていた。
それだけに雅人の言葉は嬉しかった。
「ありがとな…親父…俺、絶対いい菓子職人になるから」
ぐっと拳を握って、こみ上げてきた感動を押し殺す。
そこへ、間で親子のやり取りを聞いていた聡一郎が口を挟んだ。
「格好良く締めたところ、申し訳ないですが、碧さん、肝心の就職先は決まってるんですか?」
「あ、それは大丈夫。先生に頼み込んだからバッチリ」
最初のコメントを投稿しよう!