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「いえ。師範がここで敢えて話をしたのは、…慧(ケイ)の時のようにしたくなかったからでしょう?…僕もあんなに落ち込んだ師範は…二度と見たくないですから」
慧は碧の兄で、聡一郎とは幼馴染だった。彼が雅人とどんな話をしたのかは知らない。ふらっと聡一郎のところに姿を見せたのを最後に慧は行方をくらましてしまった。
それから一度も会えていない。気づけば二年の時が流れていた。
「……聡一郎は…」
雅人が小さく名を呼んだ。
「僕はずっと師範についていきますよ?碧さんと違ってこれが生き甲斐ですから」
聡一郎は何かを言いかけた雅人の言葉を遮ってにっこりと笑った。
雅人に気を遣ったわけではない。
これが聡一郎の本音だった。
「…そうか」
口下手な雅人は、他の言葉を探しているようだったがそれ以上は何も言わなかった。
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