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愛想のない声は不機嫌に低くなり、受話器越しにも伝わるほどに和真の苛立ちに空気がピンと張り詰めた。
「里見」
今にも通話を打ち切ろうとしていたところへ、店頭から薫が戻ってきた。
眉間のシワを深くしたまま振り返ると、薫が電話を代わると手を伸ばしてきた。
和真は受話器を薫に押し付けると、作業場へと戻っていった。
その後ろ姿を見送り、薫は電話口の相手に電話を代わった旨を伝える。
「桜井先生、ご無沙汰してます。藤原です」
「お、薫ちゃんか!いやぁ、代わってくれて良かったよ。里見すぐ怒るからさ」
原因を作ったのが自分だと全く自覚のない声で、桜井はワハハと笑った。
この後、和真を宥めるのは薫なのだ。
電話口の相手に悪気はないのは分かっているが、正直、余計な仕事を増やさないでほしい。
「分かってて面白がってるの、先生じゃないですか」
薫は大きくため息をついて、額を押さえた。
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