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カフェの隣席
カフェで窓際にあるカウンター席に座った。
イヤホンで音楽を聞きながら、持ち込んだパソコンで大学のレポートを書き始める。
その途中、隣の席に誰かが座ったようだが、どうにもこちらを窺っている気配がしてならない。
音楽は、あくまで店内のざわめきを遮断するために聞いているだけで、決して大音量ではない。だから外に音が洩れていることはないと思う。
キーボードを打つ音がうるさいのだろうか。でもレポートかなり停滞気味で、キーボード操作などほとんどしていない。
何か気に障るようなことをしたのか? それとも、もしかして知り合いか隣に座ったとかか?
気になったが、もし相手が因縁をつけるためにこちらを見ているとしたら、直接見つめ合うような状況は危険だ。
さりげなく隣を窺う方法としては、正面のガラス越しに見るのが一番だろう。
肩の凝りをほぐす運動のフリで、軽く身体を動かしながら正面のガラスを見る。
隣の席に座っているのは男だった。じっと俺を見ている。いや、正確には、その視線が向いているのは俺の頭上だ。
はっきりとはしないけれど、俺の頭の上に女の人のようなモノが立っていた。
前屈姿勢なのだが、よく見ると、少しずつ体の曲がり方が深くなり、手先が俺の方に近くなりつつある。
慌てて頭上を仰ぎ見たが、そこには何もいなかった。でも窓ガラスにはずっと女が映っていて、じりじりと体を屈め、俺に手先を近づけてくる。
隣の男はずっとこれを見ていたのか。でも、こんなモノが見えるなら、どうして教えてくれなかったのだろう。
この段階でようやく隣の男を見ると、すぐさまその目が伏せられた。でもその一瞬で、俺には男の意図が判った。
こいつは、女の手が俺に着いたらどうなるのか、それを興味津々に窺っていたのだ。
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