カフェの隣席

1/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

カフェの隣席

 カフェで窓際にあるカウンター席に座った。  イヤホンで音楽を聞きながら、持ち込んだパソコンで大学のレポートを書き始める。  その途中、隣の席に誰かが座ったようだが、どうにもこちらを窺っている気配がしてならない。  音楽は、あくまで店内のざわめきを遮断するために聞いているだけで、決して大音量ではない。だから外に音が洩れていることはないと思う。  キーボードを打つ音がうるさいのだろうか。でもレポートかなり停滞気味で、キーボード操作などほとんどしていない。  何か気に障るようなことをしたのか? それとも、もしかして知り合いか隣に座ったとかか?  気になったが、もし相手が因縁をつけるためにこちらを見ているとしたら、直接見つめ合うような状況は危険だ。  さりげなく隣を窺う方法としては、正面のガラス越しに見るのが一番だろう。  肩の凝りをほぐす運動のフリで、軽く身体を動かしながら正面のガラスを見る。  隣の席に座っているのは男だった。じっと俺を見ている。いや、正確には、その視線が向いているのは俺の頭上だ。  はっきりとはしないけれど、俺の頭の上に女の人のようなモノが立っていた。  前屈姿勢なのだが、よく見ると、少しずつ体の曲がり方が深くなり、手先が俺の方に近くなりつつある。  慌てて頭上を仰ぎ見たが、そこには何もいなかった。でも窓ガラスにはずっと女が映っていて、じりじりと体を屈め、俺に手先を近づけてくる。  隣の男はずっとこれを見ていたのか。でも、こんなモノが見えるなら、どうして教えてくれなかったのだろう。  この段階でようやく隣の男を見ると、すぐさまその目が伏せられた。でもその一瞬で、俺には男の意図が判った。  こいつは、女の手が俺に着いたらどうなるのか、それを興味津々に窺っていたのだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!