カフェの隣席

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 こんなおかしなモノが見えているのに、相手に知らせもせず、ただ様子を見ているだけの男。  もしかしたら、女の手が俺の頭に到達した時どうなるのかが気になったのか?  それは確かに興味を引かれるけれど、見えているのに放置していいという類のものじゃないだろう。  憤りが募ったが、さすがに『どうして幽霊がいることを教えない』的な発言はできなかったので、俺は早々に帰り支度をし、直接は見えない『なにか』に、憑りつきたいなら隣のこの男にしろと心の中で思って店を出た。  それから数日後。  いつものカフェに行ったら店は開いていなかった。入り口のドアに貼られたビラには、来月にリニューアルオープンするための一時的閉店としか書かれていない。  それでも俺は、なんとなくだけれど確信した。  この店で、営業を停止する程の何かが起きた。例えば、とんでもない規模の食中毒事件が起きたとか、それとは関係なく客の誰かが死んだとか。  漠然と後者だろうと思ったけれど、詮索するつもりはまるでなく、俺は店のリニューアルを待った。  そして。  内部構造はほぼ変わらないが、所々が新しくなったこのカフェに、俺はこうしてまた来ている。以前のように窓際に座り、音楽を聞きながらレポートに追われている。でも、隣にあの日見た男が座っていることは二度とない。  俺にとってはそれだけが真実で、この店に今も通い続けることができている理由だ。  あの日見たモノが何であったか知らないけど、俺が店を出た後、こっちが腹の中で思った通りの展開になったのかもしれないな。  別に、あの男は友達でも何でもないし、むしろ思い返すと嫌な奴だったから、そうなっていたとしても申し訳ないとは思わない。ただ、同じようなことが起こったら嫌なので、隣席には、可能な限り誰も座らないでいてくれと願っている。 カフェの隣席…完
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