スパイシーチョコレート

寂しい部屋

時刻は10時過ぎ。
週末は定時で帰りたいが為に、ついつい帰りが遅くなる。
今年のバレンタインデーは火曜日。
去年のバレンタインデーは、妻と娘と生まれたばかりの息子と三人で、妻がセッティングしたチョコレートフォンデュの店でスイーツバイキングを楽しんでいた。
今年は、家に一人きりで、妻からも、娘からも、バレンタインのチョコは愚か、言葉の一つも交わしていない。

2月の半ば、一桁の気温が続く中、帰ったばかりの部屋の寒さは外とほぼ変わらなかった。

スーツを着替えるのも躊躇う程、寒くて静かな部屋の中、電気を灯けた後は、温風ヒーターのスイッチを入れて、エアコンのスイッチも入れて、テレビをつけた。

♪　～　今日はバレンタイン。皆さん、チョコは貰えましたか？　～♪

テレビから、能天気な女性リポーターの声が聞こえ、ふいに視線を投げると、満面の笑みでテレビ画面からこちらを見つめる様子が、妻がいつも自分に向ける笑顔とダブって思わず目を背けていた。