本命チョコレート消失事件

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 今日は二月十四日、バレンタインデーです。一般的に日本では、女の子が想いを寄せる男の子にチョコレートを渡す素敵な日です。  恋する高校二年生の私、如月充枝(きさらぎみつえ)も、今日が勝負の日なのです。頑張りますよ。 「よっ、みっちゃん」  緊張しながら登校していると、幼馴染の千夜湖麗都(ちよこれいと)が元気に声をかけてきました。麗都とは、いわゆる腐れ縁というやつで、幼稚園のときからずっと一緒なのです。キリッと整った顔立ちが、今朝も爽やかさを演出しています。 「おはよー」  なるべく普段通りを心がけて、私は挨拶を返します。 「みっちゃんはチョコ、誰かに渡すの?」  ところが麗都は、一瞬でそんな私の努力を水の泡に。あわわわわ。 「チョッ、チョコッ!? ああああ、今日はバレンタインだったっけ! わわ私、なーんにも用意してないや! あははははは」  両手のひらを晴れ渡った空に向けて、私は自然に笑います。チョコっとだけ、怪しくなってしまったかもしれません。 「ほんっと嘘つくの下手くそだよな。で、誰にあげるの?」  なななななんと、ソッコーでバレてしまいました。私の必死の嘘がバレンタイン! とか言ったらごまかせますかね。そんなわけないですね。ええ、わかってます。現実はホワイトチョコみたいに甘くはないことくらい。 「麗都には教えなーい」  プイっと顔を背けながら、私は冷たく言いました。 「えー? いいじゃん、教えてよ。知りたいなー」 「だめ!」 「なーんてね。みっちゃんの好きな人、なんとなくわかるよ。だって、ずっと一緒にいるんだから」 「えええっ!? どうして私の好きな人が――」  っと、危ない危ない。本人の名前を言ってしまうところでした。これは麗都のはったりに違いありません。その手に乗るものですか! 「あはは。ちゃんと渡せるといいね」  麗都はそう言って、私の背中をバンバン叩きます。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加