1人が本棚に入れています
本棚に追加
「お待たせ」
私が空き教室に入って三分後、森永明治(もりながめいじ)くんが現れました。
彼とは、一年生のときに席が隣になったことがきっかけで、よく話すようになりました。目立つタイプではなく、おっとりした男の子なのですが、話してみるとすごく面白い人で、いつの間にか好きになっていたのです。
心なしか、彼も緊張しているようです。二月十四日に呼び出されて二人きりになるなんて、いくら鈍くても察してしまいますよね。
「あ、あの……。よかったら、これ……受け取ってください」
私は、手紙を掴んだ両手をまっすぐ伸ばして頭を下げます。
「あ……えと、ありがとう」
どうにか受け取ってもらえました。本来ならば、ここで一緒にチョコも渡してダッシュで逃げる予定だったのですが……。
「チョコも作ったんですけど、失くしてしまって。すみません」
私は再び頭を下げます。
「じゃあ、探そうよ」
彼は、そんな提案をしてきました。
「え?」
私が思わず頭を上げると、頬を赤く染めた彼と目が合ってしまいました。慌てて反らします。
「俺、如月さんからのチョコ、ちゃんと欲しいし」
好きな人にそんなことを言われて、喜ばない女の子がいるでしょうか。いや、いません。
「……それじゃあ、お願いします」
喜びの舞を踊りそうになるのをこらえながら、私は言いました。
「うん。どんなチョコ?」
「赤いラッピングがしてある箱です。私の机の中に入れておいたはずなのですが、さっき見たら無くなっていて……」
「じゃあ、もう一度如月さんの机の周辺を探してみよう」
「はい」
そうして、私と森永くんは教室へ向かいました。
最初のコメントを投稿しよう!