第1章 指先の秘密

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 そおーっと・・・。  Gペンを滑らせて、あたしはタケルの首筋に「*」のマークを小さく書き込んだ。  そして自分の左手人差し指の爪を見る。  ・・・・おそろいの、マーク。  嬉しくなって、笑顔になった。  秘密の悪戯をした気分だった。 「・・・ほら、同ーじ!」  人差し指をイラストに寄せて、*のマークをイラストの上で弾いた。  あたしの星型、おばあちゃんがくれた(ハズの)星型、これでタケルも一緒だね――――――――――  そして、やっと気が済んだので、幸せな気分のままで寝るための準備をしに洗面所に行った。  お風呂に入り、髪を乾かし、化粧水だけを乱暴につけて、それから部屋に戻ったのだ。  そしたら。  何故か。  部屋の真ん中に、男が座っていた。  全くそんな予想せずに入っていったあたしは入口で立ちすくむ。 「――――――」  ・・・・男が、いる。  え、何で、この部屋に?ひ、ひ、人がいる~っ!!?  驚きで声さえ出ずに、あたしは立ち竦んだままだった。そしてただ、真ん中に座って後姿をみせる男を見詰めていた。  怖がるべきだ。  叫んで、台所に飛んでいって包丁を握るとか、外に飛び出して助けを呼ぶとか。  とにかく身を守ることを考えないと。  だけど、あたしはそうしなかった。  だって。  だって、だって。  この後姿は、あたし、知ってる。  でもまさか・・・・まさか、そんなこと・・・。 「・・・・ま、さか・・・」  やっと呟きになって声が出た。  座ったままの男がゆっくりと振り返る。  あたしは息をするのを忘れた。 「・・・・た」  ・・・た、た・・・。  タケル、様が。  時間も止まってしまって、あたしは目を見開いて部屋の真ん中で身を捻ってこちらを眺める男を見ていた。  葉月タケルがいる。  先生が書いてくれたあのイラストと同じ姿形のタケルが、立体化して目の前にいる。  影もあるし、呼吸している音もするし、絵ではキラキラの大きな瞳はちゃんとした人間の美しい目へと変わっている。  だけど、ちゃんとした人間になっていたけど、タケルだと判った。 「タケル・・・?」  あたしは足から力が抜けて座り込んだ。
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