第1章 指先の秘密

13/17
前へ
/164ページ
次へ
「・・・・えー・・・。朝食、作り、ます」  タケルはにっこりと笑って、身を起こす。 「宜しく」  ・・・えーっと。一体、どうして?  とか思いながら、あたしはとりあえず朝食を作っていた。顔だけ洗って、着ているものはまだパジャマのままで。  フライパンを揺らして目玉焼きとソーセージを炒めながら、漫画のキャラとの性格のあまりの違いに心の中で文句を言う。  文句の相手は、シャツの前を開けたフェロモンだしまくりの格好で、顎を片手で支えながらぼーっと窓の外を眺めているようだった。外では庭の植物に春の日差しがさんさんと降りそそいでいる。 「・・・出来た、ご飯。どうぞ」  テーブルにセットして声をかけると、ニコニコしたままでやってきた。そして手をあわせて頭を下げると、凄い勢いで食べ始めた。 「あ、美味しい」  喜びを感じさせる声を聞いて振り返ると、彼は咀嚼しながら笑顔でこっちを見ていた。 「うまいよ、これ。サツキ、料理できるんだな」  ・・・・料理ってほどのもんを作ったわけではないんだけど。と思いつつも、憧れの美形に褒められて気分はよくなったあたしだった。いいのよ、どうぞ、ゲンキンと呼んで。 「あ、それだ」 「ん?」  食べながら問いかけるタケルの前にそろそろと座って、あたしは聞く。 「色々聞きたいんだけど、とにかくまず、どうしてあたしの名前知ってるの?」  答えないままガツガツと食べて(しかし、そんな姿でさえ綺麗って、どうよ)、お茶を飲んで一息ついてから、彼はおもむろに口を開いた。 「俺が入ってた紙に書いてあった。サツキちゃんへって」  ピンときた。ああ!って。先生のサインだ。  葉月タケルのイラストを描いてくれた上にあたしの名前をいれてくれたんだ、と感動したんだった。なるほどね、それを見て言ったから、呼ばれてもサツキとカタカナで言われてる印象だったのか。  先生がくれた『サツキちゃんへ』は、確かにカタカナだった。  あたしは一人頷いて、次の質問を放つことにする。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加