第1章 指先の秘密

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「・・・先生の描くあなたはすごーく優しいイケメンなんだけど・・・どうして今目の前にいるあなたはそんなにエラソーなの?」  彼は顔をあげて前髪の間からあたしを見たけど、口にご飯を放り込むのは止めなかった。  ・・・・よっぽどお腹すいてんだな。  あたしが仕方なくそれを見ながら待っていると、お茶を飲んでから、低い声で言う。 「俺にはわからない。きっと、元からこんなんだったんだろ」  異議あり!あたしはつい身を乗り出して抗議する。 「違う~!!全然違います!漫画のあなたはと~っても優しくて、由佳ちゃんにも超スウィートなんだから!」  すると彼は一瞬きょとんとした顔になった。 「由佳ちゃんって誰?」  ・・・・えええええ!???あたしはのけぞる。驚きのあまり全身の毛が逆立ったかと思った。  ゆ、ゆ、由佳ちゃんってば3年間もあんたの彼女をしてる女の子でしょうがあああ! 「誰ってマジで!?あなたの彼女でしょう!3年間も、小コミで人気連載中じゃん!」  あたしがわなわなと震えながら言うと、彼はふーんと興味なさげに返して味噌汁を飲む。 「・・・多分、それは関係ないんだな」 「は?」 「俺は、あくまであの紙から生まれたんだ。だからそのイラストの優しい俺は、ここにいる俺とは関係ない」  ・・・ええ?!つまり、つまり・・・。先生があの紙に書いたイラストのタケルは、現在進行形で漫画の世界で活躍している葉月タケルとは別の存在だと? 「・・・じゃあ、漫画連載中のタケルだったら、優しかったの?」  思わず聞くと、彼は綺麗な顔を機嫌が悪そうに歪めた。 「そうかもな。でもその俺だったら、お前とここにはいねーだろ。その由佳って彼女といちゃついてるはずだ」  ぐさ。  そりゃそうだって、判ってるけど・・・。  彼女である由佳とは、葉月タケルは確かにいちゃいちゃしている。少女コミックなんだから当たり前なんだけど、濡れ場は必ず毎回ある。言い方は悪いがそれが売りの少女コミックって分野なのだ。  あたしはアシスタントとして仕事するにあたって、そこだけが辛いのだ。だって、毎回、毎かーい、好みの男が目の前で(って、違うけど)他の女を抱いてるのだぞ。仕方ないとは言え、ヒロインの由佳とラブラブなタケルに確かにムカつく時だってあるのだった。
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