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何が悲しくて濡れ場で汗をかくタケルの髪に墨を入れなきゃなんねーんだ、とまでは思わないにしても。まあ、仕事だし。大切な仕事だし。
うう~っと悔しく唸ったあたしの前で箸を休めることなく食べ続けたタケルは、手をまたあわせてご馳走様でした、と言った。
その礼儀正しさはやたらと偉そうな態度とのギャップがあり、私は少し嬉しくなる。
「・・・お粗末さまでした」
小さく答えると、うん、と笑って自分から食器を持って立ち上がった。そして流しにそれを運び、あたしを振り返る。
「・・・お前、食べないの?」
え、と一瞬詰まる。おばあちゃんが居なくなって以来、誰かにこんな声掛けしてもらったのは久しぶりだった。
「あ・・・朝はいつも食べないから・・」
あたしがそう答えると、彼は少し首をかしげつつじっとこちらを見た。
「ご飯は抜くなよ。だから、つくべきところに肉がねーんだよ」
視線が注がれているのがあたしの胸とお尻だと判って、真っ赤になった。
「どうせ痩せっぽちよ!ちっ・・朝食は関係ないわよ!」
何だよこの男~!!その顔で、あたしのタケル様の顔で、普通の男みたいなこと言うの止めてよおおお~!!
あああ・・・ショックが大きい。そのキラキラの外見で全然優しくないし、意地悪な微笑みばっかだし、第一この部屋に男がいることが既に異常な状態じゃないの!
怒りとショックで赤くなったり青くなったりしているあたしを見て、彼は楽しそうな表情をする。
「・・・不満そうだな。俺が優しくない、とか思ってるんだろう」
なら、と声を出しながら近づいてきたから、あたしは飛び上がって部屋の隅に逃げた。
だけど彼はぐんぐん近づいてきて、あたしを追い詰める。
「なななっ何よ!」
ビビリまくりながらも声も唇も尖らせて抗議したら、うっすらと微笑んだままの顔を近づけて、タケルは低い声で囁いた。
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