第1章 指先の秘密

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「うん?」  首を傾げる彼にあまり期待せずに質問を投げかける。答えはないかもしれない。だけど、やっぱり聞いておかなきゃ――――― 「どうやって実体化したの?」  お風呂から上がったら、既にこの人はここにいた。あたしが居なかった間に一体何があったのだろうか。  彼はこちらを見もせずにゆっくりとカップを傾けている。そして長い指を振って、促した。 「とりあえず、俺の自慢のコーヒー飲めよ」  ・・・そうですね。小さく呟いて、自慢らしいコーヒーを口に含む。ふんわりと香りが広がって、素敵な苦味で口の中が一杯になる。温度もちょうどいい。あたしはつい、瞬きをした。 「・・・美味しい」  その感想に満足したらしく、彼は一人で頷いた。  そして体をひねって、自分の首筋を長い指でさした。 「俺の首の、これ。お前が書いたんだろ?」  あたしがGペンで書き足した*が、そこにはホクロみたいにあった。  ・・・あら。  あたしは驚いてそれを凝視する。 「これが、お前の爪先に弾かれた時に体が引っ張られた。触れた瞬間に自分の世界から離脱したんだ」  あたしは何とか言葉を搾り出した。 「・・・この星型が、原因?」 「アステリスク」 「え?」 「アステリスクって言うんだよ、こんなマークを」  ・・・そうなんですね、と呆然と繰り返す。この星型が・・触れて、出てきた?確かにあたしは爪先でイラストを弾いた。それが原因なの?  目の前に立つ美形の男が。憧れて大好きな漫画のキャラクターが、美しい人間になって?  瞼の裏におばあちゃんのキラキラした瞳がうつった。笑い声まで聞こえるようだった。  ・・・・・すごい、魔法だ。
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